法事の席で
兄が、私に、
黒の二つ折りの財布を差し出しながら
「父親の遺品だけど」
と言う。
「お前の写真が入っていたんだ」
と。
それは、カード入れの奥深くに
そっと挟まれていた。
私の就活の時の証明写真。
裏側に私の字で短大名と署名。
そして父の字で父の名前と住所と電話番号。
私の就活の残りの写真を
晩年の父が名札代わりに
もし自分がどこかで誰かに保護されたら
所在氏名が分かるように持ち歩いてたと。
泣きそう、と呟いたら
兄が
「泣け、泣け」
と言っていた。
最前のお墓参りの時には
父にそっちに行ってもいいか、と聞いていた。
心の中で。
もういいかなぁ? って。
「おとっちゃんにとって姉ちゃんは
自慢の娘だから」
だから、自分で死ぬなんて言うなよ、
そんな声が聞こえるようだった。