母は怒ると、
チチチチチ、と舌打ちをした。
それが合図だった。
母が舌打ちを始めると
私たちは何を置いても逃げ出した。
チチチチチと舌打ちしながら
箪笥の上に置いてある布団叩きを手にして
母は私たちを追ってくる。
後はお尻を打たれるまで
彼女の怒りが解かれることはない。
反対に父はいつも突然だった。
さっきまで上機嫌に酒を呑んでいたのに
その横を通ると急に頭を殴られる。
父の怒りは何度でもぶり返し
一度謝って許して貰っても
五分後にはまた最初から同じ怒りが噴出した。
父が酔いつぶれて眠るまで
それは何度でも繰り返される。
父の怒りには反抗など出来ない。
翻弄されるだけ。
半永久にも思えるくらい何度も繰り返されて
その間、父が寝付いてくれることを祈るだけ。
やっぱり生きづらい家だったんだな。
今更ながら、そう思う。