虐待サバイバー コマクサの憂鬱

虐待サバイバーの回復への道

母の仕事中に、軽く交通事故

私が幼稚園に入ってからは

母は生命保険のセールスレディになった。

 

母の古いノートが残っていた。

いくつかの詩と、

昔の友人に生保を勧める手紙の下書きが残っていた。

熱心に取り組んでいたようだし、

一時期は父の収入を超えそうになるぐらい

成績もよかったようだった。

 

 

ある日。

私は母の事務所に連れて行かれた。

休日か土曜日だったのだろうか?

私の幼稚園がない日に、母には仕事があったのだろうと思う。

何回も連れて行かれたことがあったのか、

たまたまその日だけ連れて行かれたのか、

それは覚えていない。

 

私は事務所にいるのに飽きて、

下の道路脇の歩道で遊んでいた。

当時、「猿飛びエッちゃん」というアニメがやっていた。

猿のように身軽なエッちゃんが主人公で、

エッちゃんは軽々と、走る車の屋根を飛んで

道路のこっちから向こうへ飛び渡っていた。

 

 

私は、自分にもそれが出来るはずだと思っていた。

スピードを出して走っていく車を前にすると

とても出来そうになくて怯えたけれど、

出来ないと思うのは、勇気がないだけだと思った。

えいやっと勇気を出せば、私も軽々と

車の屋根を飛んで渡れるはずだ、と思った。

 

そして、えいやっと勇気を出して、

車の列に向かって走って飛び込んだ。

 

 

 

次の記憶は、母に抱かれて車の中。

私と接触した車に乗せられて、病院に向かっているところだった。

 

もちろん、車の屋根を飛び歩くことなど出来ずに

来た車に軽く接触して気を失っていたらしい。

運転手にも、私にも幸いだったのは

軽く接触しただけで、ほぼ怪我がなかったことだった。

運転手さんには、本当に悪いことをしたと思う。

子どもに飛び込まれて、心底怖い思いをしただろうし

事と次第によっては大変なことになっただろうから。

 

 

母にとってはどんな出来事だったのだろう。

それからは、母の事務所に連れて行かれることはなかったように思う。