中学生になってから、
私も、兄のように、激しい腹痛を起こすようになっていた。
兄が家を出てから、
私が兄の個室を使うようになっていて、
窓際にベッドを置いてあったのだけれど、
そのベッドの上で七転八倒する痛みだった。
あまりにも痛くて、
窓にかかっていたカーテンを腕に巻きつけて、
ギリギリと引っ張りながら、耐えていた。
母や父が心配してくれた記憶はないけれど、
陰でそれなりに心配してくれていたようで、
ある日、総合病院の胃腸科を、
父に付き添われて受診することになった。
父が長年胃潰瘍を患っていたので、
父の主治医に診てもらうことになったのだった。
初めての大きな病院に、緊張していたような
記憶がある。
なんの検査をしたのかは覚えてないけれど、
何時間か経ったあと、診察室に呼ばれて、
大きな異常は認められないことを告げられた。
「肋間神経痛かな」
医者はそう軽く言い、
様子見で大丈夫でしょう、
と言った。
帰り道。
父は、不機嫌だった。
父は、とても気が弱い性質で、
周りに気を遣う人だった。
主治医にわざわざ時間を取ってもらったのに、
私に何も疾患が見つからなかったことで、
病院の人に悪いことをした、と思ったのだろう。
姉ちゃんも大げさだ、というような文句を
言われたような気がする。
病気だったらよかったのにな。
私は、そう思った。
そうすれば、父も母も優しくしてくれた
かもしれないのに。
病気じゃないなんて、私が悪いみたいだ。
帰り道、不機嫌に黙り込んで歩く父の後ろを
とぼとぼと歩きながら、そう思っていた。